fibona Lab

fibona Labは「実験的遊び場」
生活者との“共創”を生み出す、空間デザイン

2026.09.09

fibona Labは「実験的遊び場」
生活者との“共創”を生み出す、空間デザイン

資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「fibona」が発信する、「世の中にない」を共創するビューティープロダクツ。

横浜・みなとみらいのShiseido Beauty Park1階にあるfibona Labは、新商品が発売されるたびに展示を一新して、訪れた方々に新たな体験を届けています。

fibonaブランドの商品と思想が体感できる「実験的遊び場」とは?
研究員と生活者との「共創」が生まれる空間デザインとは?

今回は、fibonaメンバーの柳原茜と空間設計を手がける安島慧に、fibona Labならではの展示の設計や、研究員と生活者がともに商品を育てる共創のあり方について話を聞いた。

 

fibona Labは、会話が生まれる「実験的遊び場」

 

──まずは、お二人のfibona Labにおける役割を教えてください。

柳原:
私はfibona商品の試作やコミュニケーション全般を担当し、fibonaの立場から空間設計にも関わっています。

 

安島:
僕は資生堂のアート&クリエーション本部にあるスペース&VMDグループで、fibona Labの空間デザインを担当しています。

──fibona Labの空間デザインで大切にしていることは何でしょうか?

柳原:
fibonaが大切にしているのは、生活者と共に商品を育てる「共創」の姿勢です。商品を発売して終わりではなく、お客さまのフィードバックをもとに磨き上げていく。それが「共創プロダクト」であるfibonaの根底にあります。店舗は、お客さまと直接対話できる共創の場。fibona Labでは「実験的遊び場」をコンセプトに、商品ごとに売り場を一から設計し、その世界観を体験できる空間をつくっています。

 

安島:
そもそもfibonaの商品自体が、既成概念を変えていくことをテーマにしています。だから売り場も、いわゆる化粧品の販売店舗とは違うあり方にしたいと思っています。見え方だけでなく、実際に体験できたり、遊べたりする場所を意識してデザインしています。

 

──「実験的遊び場」とは、具体的にどのような空間でしょうか。

柳原:
fibonaの商品には、様々な実験的要素が含まれています。例えば、多くの商品には研究所の先端技術が取り入れられていますが、その技術をお客さまにとって価値ある情報や体験にするにはどうしたらいいか。それをfibona Labの店舗で試しているから「実験的」なんです。

同時に、ワクワクできる遊び心も大切にしています。一般的な店舗は、商品を理解し、興味を持ち、購入する流れが中心かもしれません。fibona Labではその先に会話が生まれることを重視しています。スタッフとの対話や、コメントボードに寄せられた声もそのひとつですね。

──商品ごとの空間デザインは、どのように進めているのですか。

柳原:
最初に安島さんにお伝えするのは、細かなデザインというより、商品のコンセプトや仮説です。「この商品を通して、こういう検証をしたい」「こんなフィードバックをいただきたい」というところから始めます。空間によって何を想起してもらい、どんな声につなげたいかを共有しています。

 

安島:
化粧品売り場をつくるうえでのセオリーというものがあるのですが、fibonaの開発チームと対話をすると、一度その枠を取り払って考えられるんです。それが新鮮ですし、自由に挑戦させてもらっています。

大切なのは、fibonaブランドの商品に採用された技術を空間で可視化し、お客さまに伝えることです。優れた技術でも、伝わらなければ体験にはつながりません。そこで開発チームから背景まで深掘りして聞き、どう表現するかを何度も話し合います。このプロセスが重要なんです。資生堂が昔から掲げる「アート&サイエンス」が、最も表れる場所のひとつだと思っています。

 

柳原:
安島さんをはじめ、デザイナーの方は「考え方」から設計することを大切にしています。私たち研究員は「具体」を考えるのが得意で議論が複雑になることもあります。でも、デザイナーとの対話によって原点に立ち返ることができ、ブレずにfibonaの価値をつくれていると感じます。

 

 

宇宙と地球をつなぐ、「万物軟香」の空間

──現在、大きく展開されている「万物軟香」の売り場は、どのように生まれたのでしょう。

柳原:
万物軟香は、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟内でも使用できる仕様のクリームです。宇宙のような過酷な環境でも肌を守るという発想から生まれました。落ち着きのある香木をベースにした、心に響く香りも特徴のひとつになっています。生活者が普段の暮らしのなかで感じる、さまざまな過酷環境に寄り添うスキンケアクリームです。

安島:
商品の特徴に合わせ、「宇宙から地球の香りを感じる体験」を空間のテーマにしました。

宇宙飛行士の方の中には「宇宙にずっといると、地球が恋しくなる」と感じる方がいることを知り、宇宙空間の中に地球の自然があふれ出すような、少しファンタジー要素のある世界を考えました。

そこで宇宙ステーションのイメージでトンネルのような空間をつくり、商品を宙に浮かせ、空間の天地も反転させることにしました。丸窓から写真を撮ると、中の地球や空間が上下逆に写ります。写真や映像でも、ちょっとした無重力感を楽しめる仕掛けです。その宇宙的な空間に植物が共存しているという、いい意味での違和感も大切にしました。

柳原:
「万物軟香」そのものは、地球上の環境で使えるライフスタイル・ケアアイテムです。一方で、宇宙に使える仕様であるという背景も、とても魅力的な物語だと感じていました。商品の背景にある宇宙の物語を、店頭では表現する。店頭だからこそできるコミュニケーションだと思います。

 

──fibona Labで「万物軟香」を体験してもらううえで、意識した点はありますか。

安島:
クリームを使うときに、「過酷環境」という設定を感じてもらうことが大切だと思いました。店頭で宇宙空間に来たような気持ちを少しでも感じたうえで、クリームを使ってもらう。その前後で何か感覚の変化があったかを、体験してもらいたいと考えました。

 

柳原:
fibona Labで購入された方からは、心を整えるときに指先へ使ったり、香りをかいだりするような使い方をしているという声が届いています。保湿ケアだけでなく、心に寄り添うような使い方をしている方が多い印象です。過酷環境を再現したfibona Labでの体験が、その後の使い方にも表れているのかもしれませんね。

 

──オンラインコミュニティ「Club fibona」メンバーとの共創の展示や、研究員の声を紹介する開発ストーリーの映像も展示されていますね。

柳原:
万物軟香では、開発段階で商品の使い方や使うシーンをClub fibonaのメンバーと一緒に考える試みを初めて実施しました。共創ワークショップに参加した方が店舗を訪れたときに、「参加してよかった」と感じてもらいたくて、そのプロセスを空間でどう伝えるかを安島さんに相談したんです。

 

安島:
その話を聞いてこうした共創の取り組みを、しっかり表に出したいと思いました。参加していない方でも映像を通してClub fibonaの存在や、生活者と一緒に商品をつくっていることを知ってもらうきっかけにもなります。

研究員を紹介する映像についても、完成した商品だけでなく、それを誰がつくっているのかも伝えたいと思ったんです。研究員の顔まで見えることで、商品が生まれる背景も感じてもらえる空間にしたいと考えました。

空間で体験するプロダクトの世界観

──2025年からリリースしてきたfibonaブランドの商品の空間デザインについても、振り返ってもらえますか。

安島:
fibonaブランドの第1弾としてリリースした「スキンアクセサリー」の空間設計では、酸化させたクロムメッキとアクリル素材の箱を組み合わせ、自由に組み替えられるモジュール形式を採用しました。外から入る自然光がアクリルに当たることで、プリズムが生まれます。異素材と光によって、有機的なものと無機的なものを表現したデザインです。

また、回遊するほど体験が深まる構成にしました。気軽に試せる場所から、実際に肌につける場所へ。空間を歩きながら、商品の異なる見え方や体験に出会える仕掛けです。ほかにも、社内のメーキャップアーティストとコラボレーションし、セカンドスキン技術を応用したアート作品を展示しました。「無限の変化」や「可変性」が、空間全体のテーマになっています。

柳原:
当時は、fibonaのブランド自体のコンセプトをつくり上げていた時期でした。できあがった空間を見て、変化し続けること、既成概念を超えていくことがfibonaのアイデンティティなんだと、あらためて強く感じたことが印象に残っています。

 

安島:
第2弾の商品「洗顔セラム」は、「美容液で洗う」という発想から、「浄化」をキーワードにしました。商品ラベルの色味を基調に、グラデーションプリントを施した布を垂らした、水の中や滝を思わせる空間です。商品を試しながら、自分の心も浄化するような体験を目指し、実際に使っていただけるよう、洗い場も設けました。

このときから、研究員による「どんなアイテムがほしい?」といった問いを大きなポップにして、店頭で投げかけるようにしています。訪れた方が回答や商品についての感想をシール状のカードに書き、コメントボードに貼る仕組みです。この形を取り入れたことで、fibona Labの空間を介して、研究員の問いとお客さまの声がダイレクトにつながるようになったんです。

──第3弾の「フリュイドセラム#1」は、研究技術を体験できる空間でしたね。

安島:
「フリュイドセラム#1」では、グリシルグリシンを高濃度で配合したことが、どれほどすごいのかを体験してもらいたいと考えました。そこでfibona Labをまさにサイエンスラボのように設計し、液体が結晶化する体験をスタッフとお客さまが一緒にできる場にしました。

さらに、液体と結晶化したグリシルグリシンをそれぞれ入れた砂時計も用意しました。ひっくり返すと結晶は下に落ちずに詰まりますが、液体側は通り抜けるわけです。商品のコア技術である「フリュイド化結晶抑制技術」を視覚的に表現してみました。「フリュイドセラム#1」の空間設計は、技術を説明として聞くだけでなく、自分の体験を通して感じる「技術のエンタメ化」が、ひとつの形になったものだと思っています。

 

柳原:
専門的な技術は、説明を読んだり聞いたりしただけでは伝わりにくいことがあります。でも砂時計で見ると、感覚的にわかるよう、空間で一目で伝えることの強さと、体験の重要性を実感しました。

お客さまの声とともにつくる「共創の好循環」

──fibona Lab自体が、研究者とお客さまの「共創」によって生まれる場なんですね。

安島:
fibona Labは、一方通行で情報を受け取る場所ではありません。楽しみながら商品について知り、一緒につくっていける。そんな双方向のコミュニケーションが生まれることが、この場所の良さだと思います。

 

柳原:
お客さまのコメントは、1年半ですでに1000件以上集まっています。fibonaや研究員にとっても、研究所全体にとっても大きな財産です。オンラインコミュニティのClub fibonaの会員数も400人を達成し、アイデアやコメントをいただく場が整ってきていると感じます。現在は集まった声をデータ化し、次の体験や商品にどう還元するかという部分に挑戦しているところです。

声をいただくだけで終わらせず、「自分の声が返ってきた」とお客さまに感じてもらうことが、健全な共創だと思います。意見が商品や体験に反映されれば、またフィードバックしたくなる。そんな「共創の好循環」をつくっていきたいです。

──今後、fibona Labの空間設計で挑戦したいことを教えてください。

安島:
fibona Labは、単なる売り場ではなく、お客さまの層がとても幅広い場所です。資生堂のファンだけでなく、ファミリーや近隣の大学生、ライブ会場を訪れた方、資生堂を知らずにふらっと立ち寄る方もいます。普段の化粧品売り場とは違う人に出会い、声をもらえることが、僕にとっても新鮮です。そうした多様な方々を巻き込みながら、新しい共創に挑戦し、より幅広い人に届く空間をつくっていけたらと思っています。

 

 

Text: Ikumi Tsubone Photo: Umihiko Eto, Yuko Kawashima Edit: Kaori Sasagawa