fibona Lab

UVケア、義務ではなく楽しみに。「Dual Blooming Mist UV」が挑んだ感性と機能の両立

2026.10.21

UVケア、義務ではなく楽しみに。「Dual Blooming Mist UV」が挑んだ感性と機能の両立

資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「fibona」が発信する、「世の中にない」を共創するビューティープロダクツ。資生堂研究所の100年以上にわたる研究開発から生まれた豊富な研究知見と、スタートアップ企業や生活者のユニークな発想やテクノロジーを融合させて、新商品を開発している。

2026年8月に発売された「Dual Blooming Mist UV」は、紫外線対策への義務感を「使いたい」という前向きな気持ちへ変える日中用化粧水だ。

2層の色彩、心地よい香り、化粧水のようなテクスチャーの軽やかさ――。機能と感性をひとつにした開発の舞台裏について、商品企画・処方・香り・情報開発を担った4人の研究員に話を聞いた。

 

「使いたくなる」から始まる、新しいUVケア

――「Dual Blooming Mist UV」開発について、みなさんの担当を教えてください。

中川文香(以下、中川):
私は商品企画を担当しました。商品のコンセプトや、どんな商品をつくりたいかを提案し、色や香り、容器のデザインなどを各担当者と相談しながら決めていく役割です。最終的にどんな形で完成させるか。その全体像を描きました。

中山真之介(以下、中山):
私は処方開発の担当になります。中川さんから受け取ったコンセプトや商品イメージを、どのような技術で具現化するかを検討しました。機能性だけでなく、品質も確認しながら処方を仕上げています。

平林和恵(以下、平林):
私は香りの開発を担当し、商品のコンセプトや色に合う香りを設計しました。今回は、香りと心の関係に着目した情報開発にも取り組みました。

福井文(以下、福井):
私の担当は、商品を通して伝えたいことを、お客さまに届く形で表現する情報開発です。どういう商品なのかという表現に必要な情報の裏付けやデータを、開発メンバーや薬事担当者と相談しながら整理しました。

 

――「Dual Blooming Mist UV」のコンセプトについて教えてください。

中川:
日焼け止めに対して、白くなる、独特のにおいがする、服に付くなど、使うときに気になる点があるために、義務のように感じる人も少なくありません。そこで、見ても楽しくなり、香りまで楽しめる「使いたくなるUVケア」をつくりたいと考えました。

Dual Blooming Mist UVは、化粧水の保湿とUVケアを両立する商品で、ちょっとした外出や散歩など、日常の場面に寄り添うワンマイルUVケア化粧水として使っていただけます。SPFは20で、普段使いや重ねづけがしやすい設計にしました。「しっかり守るぞ」と身構えるより、気軽に持ち歩いて、必要なときにシュッとつけ直していただきたいと思っています。

――外箱には「日中用化粧水(ミスト状)」と記載されていますね。

福井:
そうなんです。見た目や使用感、香りも、いわゆる「日焼け止め」とは少し異なります。そこで、化粧水のような感覚で使え、日中のUVケアもできることが伝わるカテゴリー名を中川さんと考え、「日中用化粧水」という表現に行きつきました。この商品ならではの価値を表した言葉だと思っています。

人とAIが共創した、2層のUVミスト

――今回、資生堂研究所の「処方開発AI」を取り入れていると聞きました。

中川:
これまでに資生堂研究所が積み重ねてきた膨大な処方の知見を学習したAIを活用しました。「2層の美容液をベースにUVケアの要素を加えたい」という私たちの案に対して、AIが提案した処方を参考のひとつにしています。その処方をもとに、中山さんが調整し、商品として完成させました。

中山:
2層になっている上の黄色い層は「UVケア」、下のピンク色の層は「保湿」と、それぞれの役割が分かれています。使う前に振って混ぜることで、両方の機能を同時に発揮する設計です。

 

――「Dual Blooming Mist UV」という商品名も、2層であることが関係していますか?

中川:
「Dual」には、二面性という意味を込めています。保湿とUVケアだけでなく、人とAIの共創、機能的な価値と感性的な価値など、この商品にはいくつもの二面性があります。「Blooming」は、使うことで気持ちが花開くようなイメージから付けました。見た目だけではUVケア商品だと分かりにくいので、「Mist UV」も最後に入れ、日焼け止め効果があるミストだと伝えています。

 

――ピンクと黄色の2層のカラーや、中味が見える容器のデザインに華やかさを感じます。

中川:
この2色はトレンドカラーを意識しています。ファッションになじみ、持っているだけでもうれしくなる色を目指しました。男女問わず使っていただけるように、社内ヒアリングで寄せられた「ピンク系でも淡い桜色なら持ちたい」という男性の声も参考にしています。

中味の色が主役なので、容器やパッケージもそれが映えるデザインにしました。容器にラベルを貼る案もありましたが、主張が強くなりすぎるため、fibonaプロダクトに共通するグリッチだけをキャップ部分に残しています。箱も側面を開け、中が見えるようにしました。人前で使ったときに「それ、何!?」と会話が広がったらいいなと思います。

 

――商品に記された「010」という数字には、どんな意味があるのでしょうか。

中川:
2層の境界を、水面のように表現したいと考えました。「010」を横向きに見ると、両端の「0」が上下の層、中央の「1」がその境界線のように見えるんです。「01-010」の並びにリズムがあるところも気に入っています。

中山、平林、福井:
そうなんだ。初めて知った!(笑)

中川:
実はそうなんです(笑)

ポジティブな感情に着目した、香りの設計

――この商品には、資生堂研究所の感性研究も生かされているそうですね。

平林:
資生堂研究所の感性研究は、化粧品を使うことでリラックスしたり、気持ちが明るくなるなど、心や身体への影響を探る研究分野で、長年その一環として、香りの効果に着目したアロマコロジー研究を続けています。私はもともとこの分野の基礎研究に携わっていて、その知見を実際の商品開発に生かしたいと考えていました。

今回は、「UVケアを義務ではなく楽しむ」というコンセプトに合わせて、ポジティブな感情のときに皮膚表面から放出される皮膚ガス成分の研究知見を香りづくりに活用しました。

――具体的には、どのような香りを目指したのでしょうか。

平林:
一言でいうと、従来品と異なる「日焼け止めらしくない香り」です。商品の色合いとも合うような香りを目指し、トップノートは、アップル、カシス、レモン、パッションフルーツなどトロピカルフルーツを思わせる、明るいフルーティーな香りが広がります。ミドルノートは、少し華やかな、ローズ、チェリーツリー、セージへと移り、ラストノートはウッディクリーミーやムスクのやわらかな香りへ変化します。

2層の処方では、成分と基剤の相性によって香りが立ちにくくなることもあります。容器を振ったときに狙った香りが感じられるように、開発メンバーと議論しながら調整を重ねました。

福井:
香りの研究には、お伝えしたいことがたくさんある一方で、化粧品の訴求には法律上の決まりがあり、商品まわりに書ける内容は限られます。そこで、平林さんと相談し、商品上では「気分までそっとリフレッシュ」という表現に香りの魅力を凝縮しました。

 

色、香り、機能……同時に成立させる処方開発の挑戦

――2層のUVミストの処方を開発するうえで、特に難しかったことは?

中山:
資生堂研究所は、UVケア商品をミストタイプで開発した経験がまだ多くありません。さらに、2層ミストの処方にUV機能を組み合わせるのは、今回が初めての挑戦でした。前例がないからこそ、何をもって安全とするのか、品質をどう保証するのかを一から検討していきました。

技術的には、色と香りを安定して配合することも難しかったですね。淡く透明感のある色は、わずかな変化も目立ちます。そこへ香りを加え、さらに保湿とSPFの機能を備えなくてはいけません。さらっとしたミストは、クリームやジェルに比べて機能を出しにくいため、AI処方の提案だけでなく、長年積み重ねてきたUVケアの知見も組み合わせました。

――色、香り、機能、使用感。どれかひとつを優先したわけではないのですね。

中山:
今回は、そのすべてが等しく大切でした。色がよいだけでも、香りがよいだけでも、この商品の価値を最大化することはかないません。もちろん、UVケアや保湿の機能、使用感も重要です。何かを高めると、別の要素にデメリットが出ることもあり、いわゆるトレードオフに陥ってしまいがちです。優先順位をつけず、全部を同時に成立させることが一番難しいところでした。

機能だけではない価値を考えたとき、「使いたくなる」という気持ちがあることに気づき、そこに挑戦したいと思いました。

 

――機能についても、お客さまに正しく伝えるために、どのような準備が必要でしたか。

福井:
情報開発は、商品の魅力を表現すると同時に、その裏付けを整える仕事です。日焼け止めとして伝えるには、SPFやPAなどの機能を裏付けするデータが欠かせません。処方の決定後、専門機関で紫外線防御効果を評価し、SPF値が確定するまでには数カ月かかります。その期間を見越して、開発を進めました。

実は当初、日焼け止めとして進めていたのですが、途中で日中用化粧水という位置づけに変わり、化粧水としての裏付けも必要になりました。短い開発期間のなか、最適な方法を選びながら、開発と並行してデータを整えていきました。

――最後に、どんな方に「Dual Blooming Mist UV」を使ってほしいですか。また、この挑戦を今後にどう生かしていきたいですか。

中山:
これまでにないUVケアが広がるきっかけになればと思います。処方開発の立場からは、今回得られたノウハウを次の開発にも生かしたいです。fibonaは、「未完成」であることを出発点にしています。発売後のお客さまの反応も、良い面と課題の両方を受け止め、今後の商品づくりに取り入れていきたいです。

福井:
私のように、毎日時間に余裕がない方に使ってほしいです。玄関に置いても可愛らしく、すぐに使えて、香りも楽しめます。忙しいなかでも、ふっと気持ちが上向き、そのうえUVケアもできる。そんな存在になったらうれしいです。

平林:
UVケアで香りを楽しむ化粧品体験は、まだ多くはありません。外出前に自分の気持ちを切り替えるだけでなく、「こんな商品があるよ」と誰かにすすめたり、一緒に使ったり。人とのコミュニケーションにもつながったらいいですね。

中川:
「Dual Blooming Mist UV」は、香りも色も使い心地も大切にした、fibonaだからこそ生まれた商品です。日焼け止めを義務と思っている人に、ぜひ手に取ってほしいです。私は化粧品の価値は機能だけではなく、使うときにどう感じるかや、どんな体験をするかにも価値があると思っています。この商品を通して、これまでのUVケアの概念を超えて、感性も価値として届けられるかを確かめていきたいです。

Text: Ikumi Tsubone Photo: Yuko Kawashima Edit: Kaori Sasagawa