fibona Lab
肌から発生する“ストレス臭”をケア。緊張を味方につける「Stress G Harmonizer」誕生秘話
2025.08.29

資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」が手がけるビューティープロダクツとして、緊張によるストレスで全身から発生する“ストレス臭”をケアするミスト「Stress G Harmonizer」(販売名称:資生堂フィボナ03-160)が新たに誕生した。
資生堂の皮膚ガス研究によって明らかになった“ストレス臭”とは何か。 「ハーモナージュ香料」が可能にした香りの調和によるケア、そして「緊張を味方につける」新しいセルフメンテナンスのあり方とは──?
プロジェクトメンバーで、 “ストレス臭”の研究者の勝山雅子、商品の情報設計やコミュニケーションを担当した藤巻大樹、使用法を設計した根岸茜子の研究者3人に話を聞いた。
“心の揺らぎ”が、自分のにおいになる
──今回の商品開発における、それぞれの役割を教えてください。
藤巻:
私は「Stress G Harmonizer」という商品がもつ魅力を伝えるための情報や、それをどう外に伝えていくかというお客さまとのコミュニケーション面での開発を担当しました。

勝山:
私は商品コンセプトの背景になっている、“皮膚ガス”や“ストレス臭”といった皮膚から放出されるにおいと人の身体、心の関係の研究に携わっています。
根岸:
私は、実際にお客さまにどんなふうに日常で使っていただくかという使い方の部分の設計をしました。

──勝山さんが研究されている“皮膚ガス”、“ストレス臭”とは何ですか?
勝山:
人は全身の皮膚からさまざまな気体成分を出しており、私たちはそれを“皮膚ガス”と呼んでいます。これらの一部、においのあるものは体臭として認識されていますが、無臭のものも出ています。
この“皮膚ガス”研究を通じて新たに発見されたのが、“ストレス臭”です。緊張によるストレスを感じたときに、皮膚から特定のにおいが放出されます。「Stress G Harmonizer」は、この“ストレス臭”をケアするアイテムになります。

――どのような経緯で“ストレス臭”は、見つかったのですか?
勝山:
資生堂研究所では、香りの研究の延長として長年“皮膚ガス”の研究にも取り組んできました。私自身は2005年ごろから、食事や体調が肌に与える影響を研究する中で、皮膚から自然に放出される微量なガスに着目しました。血液検査のような痛みを伴わず、身体の内側の変化を捉えるツールになり得ると感じたからです。
最初は食べ物や、体調による体臭変化などを中心に研究していましたが、ある時、“心の状態”によってもにおいが変わるのではと気づきました。
その気づきの発端は、全く偶然でした。当時、いつものように研究に参加してくれた一般の方の“皮膚ガス”を採取した際、複数の方から普段とは異なる“炒めたネギ(ラーメンの上にあるネギ)のようなにおい”が手のひらから検出されたのです。その原因を探るためにその方達に直前の食事内容や、体調が悪くないか伺いましたが、最終的にわかった原因が、白衣姿の私に対して緊張していたということでした。
その後、本当に緊張ストレスが原因なのかを確認するために緊張状態とリラックス状態の比較試験を行い、確かに緊張ストレス状態の時に必ず出てきたので、このにおいの変化が感情に由来するものであると確信しました。次にこのにおい成分を突き止めようと分析を始めたのですが、この成分はごく微量でにおう特徴があり、鼻ではわかっても通常の分析機器では検出されないという事態に直面しました。機器で検出するために何十人ものサンプルが必要となったので何度もサンプリングの試験を行いましたし、一方で分析にも手法に工夫が必要だったので、結局成分を突き止めるまでに約3年半の歳月がかかりました。こうして現象を発見し、成分まで明らかになったのが“ストレス臭”です。
――いま嗅がせてもらいましたが、まさに“炒めたネギ”のような匂いで驚きました。誰にでもこの“ストレス臭”は出るのでしょうか?
勝山:
検証の結果、性別・年齢・人種を問わず、緊張によるストレスを受けている状態で放出されることがわかっています。そして、このにおいの強さは、緊張などによる心拍数の上昇に応じて強くなることを確認しています。おもしろいことに、心拍が上がると言っても運動で上昇した場合はまったく検出されないので、このにおいが出ることは誰にでも起こる心の変化特有の現象であると確信しています。
さらにショッキングな事実があります。実は“ストレス臭”を嗅ぐことで、自身の緊張が高まるだけでなく、周囲にいる人まで緊張状態にさせてしまうこともわかりました。緊張している人のそばにいて、「自分もそわそわしてしまった」という経験に思い当たる方もいるのではないでしょうか。
実際におよそ20人を対象に、“ストレス臭”を嗅ぐ前後で心理状態を調べたところ、「緊張」のスコアが明らかに上がり、人から発せられる“ストレス臭”が、周囲にも影響を与える可能性があることがわかりました。
「Stress G Harmonizer」で“ストレス臭”を和らげることが、自分自身の緊張を鎮めるだけでなく、周囲との心地よい関係を保つ手助けにもなり得るのです。

“ストレス臭”を調和し、整える「ハーモナージュ香料」
──「Stress G Harmonizer」は、この“ストレス臭”に対してどのようにアプローチをする商品なのでしょうか?
藤巻:
“ストレス臭”は「臭」という字が示す通り、決して好ましいにおいではありません。そこで、この成分をキャッチして香りを調和(ハーモナイズ)させる「ハーモナージュ香料」を配合した化粧水ミストをつくりました。
勝山:
嫌なにおいへの対応としては、強い香りで打ち消すマスキングという方法もありますが、今回は異なるアプローチをしています。“ストレス臭”に特化した「ハーモナージュ香料」は、それ自体に強い香りがあるものではなく、悪いにおいだけを包んで調和させます。

藤巻:
無香性とヒノキの香りの2種類がありますが、無香性はあえて「ハーモナージュ香料」のみを配合し、香水などの香りを普段から楽しんでいる方にも使えるようにしました。もう一方は、ヒノキの香りと「ハーモナージュ香料」とをうまく組み合わせ、リラックス感をより感じてもらえるようにしています。
緊張によるストレスは、決して悪いものではありません。むしろ“もっと頑張りたい”という意思が生む自然な反応で、適度な緊張であれば、むしろパフォーマンスを上げるものです。
商品名に「Harmonizer」という言葉を入れているのは、「ハーモナージュ香料」の意味に加え、ストレスそのものを包み込み、どんな時も心地よく自分を整えられる体験をしてほしいという思いも込めているからです。

緊張を味方につける、“お守り”のようなミスト
――「Stress G Harmonizer」は、皮膚から発生する“ストレス臭”をケアするものですが、どのカテゴリに入るものなのでしょうか。「デオドラント」ではないですよね。
藤巻:
化粧品になります。“ストレス臭”は緊張によって発生するものですが、緊張そのものを「悪いもの」とは捉えたくありませんでした。そのため「デオドラント」のような“不快なにおいだから消す”という商品とは一線を画すものにしたかったんです。
こだわった部分のひとつは、体のどこに使っても心地いい使用感です。化粧水ミストなので、“ストレス臭”が出やすい手のひらはもちろん、顔や体にも使えます。自分や空間を守る香りをまとうイメージで使っていただけるといいのかなと思います。

根岸:
多くのデオドラントやフレグランスは、「朝に使って長時間持続するもの」が一般的です。しかしこの商品は、その真逆をいく、「瞬間に寄り添うもの」を目指しています。fibonaだから挑戦できた、新しい価値設計だと考えています。
また、“ストレス臭”は、自分の意志とは関係なく自然に出てしまうものです。このアイテムがあれば、緊張する場面の前に、シュッとひと吹きするだけで、自分を落ち着かせ、前向きな気持ちに切り替わるきっかけになります。緊張を味方にして、うまく付き合っていくためのセルフメンテナンスが叶うアイテムです。

使うたびに生まれる、自分の“今”と向き合う時間
――どんなシーンで使ってもらいたいですか?
藤巻:
ビジネスシーンでのプレゼンや会議などの場面はもちろんですが、たとえば結婚式のスピーチ、授業参観など、実はプライベートの中にも“緊張”はたくさん潜んでいます。どんな方にもこのアイテムが役立つのではないかと感じています。
私自身も大事なプレゼンの前に使用したのですが、自分の力を落ち着いて発揮できたと感じます。「Stress G Harmonizer」を使うことで、「少し落ち着こう」と自然に自分に声をかけられるようになるんです。本当にお守りのように、そっと背中を押してくれました。
根岸:
たとえば受験前などは、親も子どもも緊張しがちになり、その空気が家庭に伝播してしまうこともありますよね。そんなときにも使ってもらいたいです。「Stress G Harmonizer」が、“カチコチな空気の連鎖”を、やさしく和らげてくれる存在になれたらと願っています。
勝山:
私は初デートなど、相手に自分をよくみせたくて緊張してしまう場面でも、ぜひ使っていただきたいですね(笑)。

―――最後に、「Stress G Harmonizer」を通じて届けたいことを教えてください。
藤巻:
開発を通じて、“ストレス臭”に限らず、“皮膚ガス”という存在が、肌だけでなく、心や体の状態とも深く関係していることを知りました。だからこそ、多くの方に「におい」が自分を知るための大切なプロフィールの一部だと気づいてほしいと考えています。
もうひとつは、ミストによって「自分はどんなときにストレスを感じているんだろう?」と見つめ直す時間を感じてほしいということ。自分の変化に気づくツールになれば嬉しいですし、お客さまからも「こういうときに使ってよかった」などの声をぜひいただきたいです。
根岸:
過度なストレスのもとでの言動は、その場にさらなるストレスを呼び、良い空気感を壊してしまうことがありますよね。でも、ちょうどいい緊張感の中で物事が運んだときは、自然と良い表情が生まれ、「うまくいったな」と思える瞬間が増えます。そうしたやわらかな空気が、社会全体にも広がっていくことを願っています。「Stress G Harmonizer」は、人とのスムーズなコミュニケーションをサポートする商品としても可能性を感じています。
勝山:
切羽詰まっているときほど、自分の緊張や疲れに気づきにくく、張り詰めた状態のまま過ごしてしまう方も多いと思います。「Stress G Harmonizer」が「今、自分は緊張してるかも」と気づくきっかけになれば、その人にとっても、周囲にとってもすごく大きなこと。
ストレスという言葉はどうしてもマイナスなイメージをもたれがちですが、本来は誰にとっても必要なものです。ストレスや緊張を消すのではなく、味方につける。そんな感覚を、この商品とともに届けたいです。