fibona Lab
「スキンアクセサリー」メイク×ファッションで自己表現を拡張:Shiseido Beauty Parkでランウェイショーを初開催
2025.07.15
見上げた先にある階段を、モデルが次々と降りてくる。
私たちオーディエンスの前を、颯爽と歩く彼女たちが纏うのは、近未来を感じさせる“拡張した自己表現のかたち”。
私たちはこの時、新たな“美”の体験を共有していた──。
研究員と生活者がつながり未来の美を共創する「Shiseido Beauty Park」が1月、資生堂グローバルイノベーションセンターにオープン。
3月29日、資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「fibona」から生まれたビューティープロダクツ「スキンアクセサリー」をキーアイテムとしたランウェイショー「fibona × Beauty Creation Center × grounds Study #1『自己表現の拡張〜装う•纏うとは?』」が初開催された。共創から生まれた実験的なショーをレポートする。
「Shiseido Beauty Park」で初のランウェイショー
Shiseido Beauty Parkでは初めての試みとなるランウェイショー「fibona × Beauty Creation Center × grounds Study #1『自己表現の拡張〜装う•纏うとは?』」。
資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「fibona」と、最先端のトレンドを発信する資生堂の「Beauty Creation Center」、そして「重力との関係を変える靴」がコンセプトのフットウェアブランド「grounds」とのコラボレーションによって実現した。
「スキンアクセサリー」は、肌と一体化し凹凸を補正する人工皮ふを肌上に形成する資生堂の最先端テクノロジー「Second Skin」技術(以下、セカンドスキン)を応用したビューティープロダクトだ。
ショーの開始とともに映し出されたのは、「grounds」を監修するファッションデザイナー・坂部三樹郎(さかべみきお)氏と資生堂のヘアメイクアップアーティスト・計良宏文(けらひろふみ)のインタビュー映像だ。
今回のランウェイショーのポイントを「透明で柔軟な被膜をつくるスキンアクセサリーを使うということ」だと話す計良。
「スキンアクセサリー」は現在、アクセサリーパーツを顔や身体に貼ることのできるプロダクトとしてリリースされているが、今回はそのベースであるセカンドスキンに着目し、透明で柔軟な膜を使ったさらなるメイクとファッションの拡張を目指したという。
資生堂のBeauty Creation Centerに所属する計良は、これまでにスキンアクセサリーを用いた斬新なアートピースを発表してきた。そんな彼ならではの視点だ。
今回、明確なイメージが浮かんだのは、坂部氏からのある提案がきっかけだったという。
「坂部さんにセカンドスキンを使ったショーの相談したとき、最初にリファレンスとして見せていただいたのが、ベールを顔にかけたイメージだったんです。この表現を形にするため、研究所のメンバーと一緒に可能性を探っていきました」
「スキンアクセサリーは、特殊メイクと一般的なメイクのちょうど中間地点にある。今回のようにうまくファッションと融合させ、活用していく先に、新しい化粧文化が生まれるんじゃないか。そこを探っていきたいです」
坂部氏も、セカンドスキンとファッションの融合する、全身表現の可能性について語った。
「顔と足元は、一番パーツとして離れている。だからこそ、その両方に特徴をもたせることで体全体が見えてくる見せ方ができたら、面白いんじゃないかと思ったんです」
「逆に、靴だけ、メイクだけと“部分”にフォーカスしすぎると、“全身トータル”としてのファッションではなくなってしまうことがたまにあるんです。だから今回は、セカンドスキンによる特殊なメイクを一緒にやらせて頂くなかで、靴とメイクに全身が挟まれて見えるようなショーにしたいなと思います」
セカンドスキンを使ったファッションとメイクの拡張? 靴とメイクに全身が挟まれて見えるようなショー!? それは一体、どういうものなのか。
その答えは、ランウェイショーが始まるとすぐに明らかになった。
セカンドスキンが拡張する自己表現
ゆるやかな螺旋状の階段を降りてくるモデルたち——。
まず目を奪われたのは、頭から顔にかけた透明なマスクとフィラメントのようなヘアアクセサリー。次に惹きつけられたのは、透明度が高くボリュームのあるソールのシグネチャーが際立つ「grounds」のフットウェアだった。
セカンドスキンでできた透明、白、グレーのベール、と、「grounds」が手がけたファッションをまとったモデルのランウェイが続く。
ベールの下にスキンアクセサリーを顔中に敷き詰めている
このショーで、セカンドスキンが使われたのはマスクだけでない。セカンドスキンを用いたトップスで“肌と服の境界線をなくす“試みもあった。
セカンドスキンを駆使した「メイクとファッションの拡張」により、全体的にはモノトーンや茶色の配色なのに、不思議と“鮮やかな”強い印象が残ったことも特筆すべき点だろう。
わずか15分ほどのランウェイだったが、たくさんの遊び心と実験的要素が詰まっていた。
共創するスキンアクセサリーの未来
「思っていたよりもたくさんのお客さまにお越しいただき、少し緊張しています」
ショーの最後に登壇したのは、スキンアクセサリーのチームで技術開発を担当する研究員、貞神喜郎。貞神は、来場した観客やショーに携わった関係者への感謝と、自分の思いを伝えた。
「スキンアクセサリーは、“自己表現の拡張”をコンセプトにしています。もともとは“貼るコスメ”をイメージしていました。しかし、未来を想像したとき、肌と身につけるものの境界が曖昧になり、ある種一体化する。そんな姿を思い描きました」
「坂部三樹郎さんのディレクションによる今回のランウェイショーでは、まさにスキンアクセサリーをただ身につけるだけでなく、“纏った”ときに、頭から足元まで全身で表現する可能性を提示していただきました」
「もう一つ、スキンアクセサリーには“共創”というコンセプトがあります。これはfibona全体のコンセプトでもあります。私たち研究員は、みなさまの声を真摯に受け止めながら、ともにスキンアクセサリーを未来に向けて発展させていきたいと考えています。本日はありがとうございました」
こうして実験的な初のランウェイショーは成功の余韻とともに幕を閉じた。
観客の“自己表現”を見つめ直すきっかけに
「メイクをするのは好きだけど、自分に合うメイクがわからないと感じていました。でも、今日のショーを見て、“自分の個性を表現するもの”と捉えたらいいんだと思いました」
「私は創作ダンス部に所属しているのですが、新しい表現方法をショーで見せてもらえた気がします」
そんな感想を寄せてくれたのは、ショーを観覧した二人の高校生。初めて体験したスキンアクセサリーについても、「普段のメイクよりも楽しい」「メイクの幅が広がる!」と楽しげに話してくれた。
また、ファッションへの興味から観覧に足を運んだ20代の男性は、「セカンドスキンがしっかりファッションとして落とし込まれていて素晴らしかったです。ショーとしての完成度が高く、壮大さを感じました」と感動を伝えてくれた。
ラウンウェイショーを観た一人ひとりが、それぞれの自己表現とも向き合える。そんな新たな美の体験が生まれた瞬間となった。
スキンアクセサリーの体験ブースで生まれた景色
会場には、「肌に纏う」スキンアクセサリーを様々なアプローチで表現した作品も展示された。
ランウェイショーの前には、スキンアクセサリーの体験ブースに人だかりができていた。
パールやクリスタル、ホログラムなど好きなパーツを選び、セカンドスキンを用いた2つの基剤で顔や肌に貼り付ける。世代や性別を越えた多様な人々が、いつものメイクとは一線を画すビューティー体験に目を輝かせていた。
研究員の想像を超えた実験、次なる共創と挑戦へ
ランウェイショーの直後、スキンアクセサリーの開発メンバーに話を聞いた。まず、今回の企画の起点はどこにあったのだろうか。
fibonaメンバーの柳原茜は語る。
「今回のショーは、研究要素を持った実験的な試みだと捉えています。スキンアクセサリーは“まだ存在しない分野のプロダクト”なので、若い方やファッション感度が高い方が新しいメイクやファッションのあり方をどう捉えるのか知りたいと思っていました」
(左から)みらい開発研究所 研究員で「セカンドスキン」プロジェクトリーダーの久保田俊、研究開発担当の貞神喜郎、fibonaメンバーの柳原茜
柳原は、ランウェイショーの企画を進めるなかで、ファッションデザイナーの坂部氏やヘアメイクアップアーティストの計良をはじめ、セカンドスキン開発メンバーたちの「熱量」の高さも強く感じたそうだ。とくに貞神は、“取り憑かれたかのように”アイデアを実際に形にするテストをくり返していたという。
貞神は、「坂部さんからいただいたアイデアを具現化するのが私たちの役割。それでも最初は、セカンドスキンの膜でマスクを作ることすら厳しいと思っていたんですよ」と苦笑いを浮かべつつも、やりきったような清々しい表情を見せた。
「これまでのセカンドスキン技術を振り返ったとき、薄くて透明なマスクも、薄くて破れない衣服も、正直、形にするのは難しいと思いました。それでも何より、私自身がその完成形を見てみたかった。坂部さんがアイデアを出してくれたからこそ、私たちの想像を超えた実験ができたんです」
メイクからファッションへの拡張——。言葉にするのは簡単だが、その裏側には、一つひとつ立ちはだかる技術的な壁を「諦める」ことを選ばなかった研究員の姿があった。
プロジェクトリーダーである久保田俊は、「スキンアクセサリーがつくるメイクとファッションの未来を、お客さまにお見せできたことが大きかった」と振り返りながら、次の実験を見据えている。
「顔から衣服をすべてシームレスにつなげて表現する“美の拡張”によって、これまでの(美の)概念を壊していく。それが今回のテーマのひとつでもありました。お客さまの貴重なフィードバックも含めて、今日得られたことを、また次の挑戦と共創につなげていきます」
ファッションデザイナー、メイクアップアーティスト、そして資生堂の研究員。その道のプロたちが集いクリエイティビティを尽くして、ランウェイショーを創り上げていた。
共創によって開いた扉の先に、次はどんな景色が広がっているのだろうか。
text: Ikumi Tsubone
photo: Umihiko Eto
edit: Emi Kawasaki, Kaori Sasagawa