fibona Lab
グリシルグリシン資生堂史上最高濃度※1配合、
キメ・毛穴ケアの「フリュイドセラム #1」
fibona研究員が挑んだ“ミニマム”な開発
2026.03.13
資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」は、「世の中にない」を共創するビューティープロダクツとして、2026年1月、毛穴の悩みにアプローチする美容液「フリュイドセラム #1」を発売し、Shiseido Beauty Park(SBP)1階のfibona Lab販売初日には行列が見られるなど注目を集めている。
商品の根底にあるキーワードは「ミニマム」。資生堂社独自の技術、処方、パッケージ……研究員だからこそ実現できた「フリュイドセラム #1」開発の舞台裏ついて、話を聞いた。
「フリュイドセラム」の開発チーム
(写真左から)大高康佑、上野堅登、西川聖二、中村光希
※1 当社商品との比較
目指したのは「ミニマム」を体現するプロダクト
——まずは「フリュイドセラム #1」における、みなさんの担当を教えてもらえますか。
上野:
私は企画立案者として、商品のコンセプト作りからお客さまにどんなベネフィット(価値)を届けるべきか、全体を俯瞰しながら考えました。普段は資生堂ブランドの訴求開発やマネジメントをしていますが、今回は「リーダー」というよりは、開発チームメンバーそれぞれの専門性をうまくつなぎ合わせる「プロデューサー」のような意識で進めてきました。各分野のプロが力を持ち寄り、ひとつのチームとして動く。いうならば「アベンジャーズ」ですね(笑)。
西川:
私は上野さんとともに企画立案を担当し、主に化粧品基剤に対して素材をどう使い、どうお客さまに届けていくかという「化粧日基剤の企画設定」を中心に進めました。また、SBP1階にある「fibona Lab」において、どのようにお客さまとコミュニケーションし、体験を届けるのか。そういったブースの設計も担当しました。
中村:
私は「化粧品基剤」の開発を担当しました。普段からスキンケアの処方技術を研究していますが、今回は「どの成分を選定するか」という入り口から、最終的に「どういう肌効果を届けるか」まで、メンバーとディスカッションを重ねて作り上げました。
大高:
私は外装を担当しました。中味の特性に最適な容器はどれか、吐出する穴のサイズはどのくらいがベストか。そういった技術的な検証をしながら選定し、今回デザイナーが「ミニマム」をまさに体現してくれたようなデザインを実現するため、外装スリーブなどの包装材を量産可能とする設計や、生産部門と連携しながら工程を作り上げました。
——fibonaで商品を手がける上で、大切にしたことは? どのような経緯で「フリュイドセラム #1」を開発することになったのでしょうか。
上野:
fibonaのフィロソフィーである「アンチ・究極・超越」をどう形にするか、という点です。自社の既存商品ではなかなか出せない、研究者目線で「本当に届けたい価値」を追求しようという強い思いがありました。そこでチームが今回着目したのは、資生堂研究員だからこそ知る本質的なアプローチです。
資生堂研究所の「グリシルグリシン」の研究は、化粧品技術のオリンピックともいわれる化粧品技術の祭典、国際化粧品技術者会連盟「IFSCC」で最優秀賞を受賞しています。本成分は、毛穴開きの原因に働きかけ、肌のキメを整えることが明らかになっています。資生堂研究所では、長年にわたり毛穴への効果研究に取り組んできました。その研究知見を基盤に、「フリュイドセラム #1」は配合成分やパッケージに至るまで徹底的にこだわり、これまでにないミニマムで尖った商品を目指しました。
西川:
今、お客さまの化粧品へのリテラシーが非常に上がっていて、どんな成分が入っているかを自分で調べ、自分に合った商品を選べる方が増えています。
その一方で、化粧品市場全体では「成分の濃度」を競うような数字競争に陥っている側面があるように感じます。「何パーセント入っているからすごい」という足し算の論理ですね。
“濃度が高い=効果が高い”が成り立つかについては常々疑問に思うところで、研究員としては高濃度配合した成分をあますことなく肌に届けられたいというモチベーションを常に持っていました。
私たちは、最高濃度のグリシルグリシンを肌に届ける商品を作りたかったんです。その“誠実性”をプロダクトとして形にするために、「フリュイド結晶化抑制技術」という資生堂独自の技術を使いました。
成分を高濃度の状態で肌に届ける独自の技術
——毛穴の目立ちに働きかけるグリシルグリシンを高濃度の状態で肌に届けるためには、フリュイド結晶化抑制技術が重要なんですね。
西川:
フリュイド結晶化抑制技術は、もともと資生堂研究所が持っていた技術です。今回はグリシルグリシンに対して使用しているのが一つ大きなポイントになっています。
上野:
たとえば、海水が蒸発すると塩の結晶が残りますよね。有効成分をどんなにたくさん入れても、塗った後に水分が飛んでしまうと、成分が肌の上で結晶化して固まってしまい、中に入っていかなくなります。グリシルグリシンは高配合であるほど効果が望めますが、同時に成分が結晶化しやすくなってしまうんです。
「フリュイド結晶化抑制技術」は、成分が高濃度であっても液体の状態を維持させる技術です。これは化学分野で注目されている「イオン液体(※)」の知見に着想を得た技術です。わかりやすくいうと、本来は強固に結びついて結晶化しやすい成分同士のつながりを、ほかの成分と組み合わせて「緩めてあげる」ことで、肌の上で液状であり続けられるようになります。
「フリュイドセラム #1」は、フリュイド結晶化抑制技術によって液状を保てるからこそ、高濃度の状態で肌に届けることができる商品になりました。この技術が、ほかにはない「尖っているポイント」ですね。
※イオン液体とは融点(固体が融解し液体になるときの温度)の高いイオン性の物質同士を組み合わせることで、元の物質の融点より低い温度で液体になる新しいタイプの液体
西川:
グリシルグリシンは、もともと結晶化しやすい成分です。そんなグリシルグリシンを最高濃度で配合しつつ肌へ届けるためには、グリシルグリシンを結晶化させないことが重要です。それを実現するための技術がグリシルグリシンをイオン液体化させる技術である「フリュイド結晶化抑制技術」だったんです。グリシルグリシンにこの技術を使ったのは、資生堂としても初の試み。そのため一から検討をスタートしました。
中村:
その基剤開発が私の仕事でした。市場には何万通りの成分がありますが、その中からグリシルグリシンのガチッとした構造をほどきながら、安定して維持できる最適な組み合わせを探し出しました。さらにミニマム処方にするために、使用したのは厳選した9成分のみになります。
通常の製品開発とは異なる「引き算」のものづくり
——化粧品で9成分というのは、一般的に考えるとかなり少ないですよね。
上野:
非常に少ないです。私たちの通常の製品開発では、肌にいいものをふんだんに、リッチに入れていく「足し算」が主流です。しかし今回は反対に、徹底的に引き算をしました。
それは僕らにとって、とても勇気がいることでもありました。そぎ落としすぎると「つまらないもの」になってしまうリスクがあるからです。それでも、シンプルで効果がある、洗練されたミニマリズムを実現させたいと思いました。
大高:
ただ「良いもの」を、たくさん入れたらいいわけではないんですよね。
中村:
実は、処方がシンプルになるほどテクスチャーの調整は難しくなるんです。ですが、9成分という限られた成分の中で、配合量のバランスにこだわったことで、みずみずしさと保湿感を両立させる心地よいテクスチャーにすることができました。
——「フリュイドセラム #1」の使い心地や、使い方のコツを教えてください。
中村:
見た目はシャバシャバとした流動性のある液体ですが、肌に伸ばすとみずみずしさが広がり、その後、吸い付くような保湿感が残ります。スキンケアにおいて保湿は基本ですから一成分を際立たせつつも、使い心地のよさは妥協していません。
上野:
使い方は、洗顔後に使っていただくのがベストなタイミングです。このセラムだけでスキンケアを終わらせてもいいのですが、もし足りないと感じるようでしたら、普段使いの化粧水や乳液を重ねても。朝晩で使い続けていただくことで、毛穴ケアの実感を得られるはずです。
容器自体がスポイトになっているので、気になるところに直接適量を出して使えます。もちろん化粧水と同じように手に出して、両手で顔全体に広げる使い方でも大丈夫です。
外箱さえも削ぎ落とす、ミニマリズムの美学
——「フリュイドセラム #1」はスポイト状の容器で、一般的な化粧品とは一線を画すミニマムなデザインのパッケージも印象的ですね。
大高:
普段から資生堂社商品の外装を担当していますが、そこでの私の仕事は、中味のコンセプトをどう体現し、お客さまの手元に届けるかを設計することです。
今回は「足し算ではなく引き算の設計」「最小限で最大限届ける」という商品の思想を、外装でも極限まで表現したいと考えました。その結果、行き着いたのが、ダイレクトに届けるスポイト型の容器と箱のない包装です。
——一般的なスポイト容器とは、使い勝手も形もかなり違いますね。
大高:
通常、スポイトといえば蓋の部分がスポイトになっていて、瓶から吸い上げて手に取るものが一般的です。ですが、今回は「他の商品と同質化したくない」という思いがありました。スポイトの本質は「液体を特定の場所に運ぶこと」です。今回の容器は、後ろの部分をプッシュすることで、気になるところへダイレクトに1滴を狙って届けられるようになっています。余計な動作を省き、ターゲットである毛穴に最短距離で成分を届ける。そんな機能美が備わった形になっていると思います。
——外装の箱も「引き算」を感じます。
大高:
これは、チームで「最小限の外装とは何か」を突き詰めた結果です。円柱の容器を四角い箱に入れると、どうしても角に「余白」が生まれますよね。その余白すらもったいない、なくしたいという話になりました。そこで、デザイナーのアイデアから、一般的な化粧品では当たり前の「紙箱」をやめ、容器に直接「紙を巻く」というスリーブ形式を採用したんです。この部分は、承認を得る会議の直前まで設計変更を繰り返して本当に大変でした(笑)。
一般的には、箱に入れる方が生産効率も良く、安定性も高いんです。紙を巻く仕様の場合、紙が薄すぎれば強度が足りず、厚すぎれば紙の反発で接着剤が剥がれてしまいます。最小限の厚みでありながら、しっかりと容器に沿い、さらにお客さまが「巻物を解くように」心地よく開封できるバランスを追求しました。プラスチックなどの素材ではなく紙にこだわったのは、サステナブルな観点からです。
紙を容器に巻くのは、SBPのGIC工場で手作業をしています。大変ではありますが、こうしたところもfibonaらしいクラフトマンシップを表現できていると思います。
上野:
自社商品のなかでも、こんなふうに紙を巻いている商品はないと思いますね。
——容器に記載されている「323」という数字や、上部の不思議な文字についても気になります。
中村:
「323」の真ん中の「2」は、実はグリシルグリシンの構造である「ジペプチド」からきています。「ジ」というのが「2」を意味しているんです。そんなふうに商品にゆかりのある数字を選びました。
上野:
上の文字は、グリシルグリシンという表示をあえて「文字化け」させたようなデザインになっています。成分名って、一般の方には小難しく馴染みがないものですよね。でも、我々研究者にとっては大事なもの。そのギャップを逆手に取って、アイコニックなデザインで遊び心を入れてみました。
結晶が育つ様子を“体験”、五感で楽しむ「fibona Lab」
——今回、「フリュイドセラム #1」が発売されるSBP1階の「fibona Lab」は、どのような設計になっているのでしょうか。
西川:
グリシルグリシンやフリュイド結晶化抑制技術が、どんなにすばらしいものだとしても、一般の方にはまだなじみがないものだと思います。そこで、これらの紹介を「エンタメ化」することで、お客さまにとって興味をもってもらえる形にしたいと考えて、fibona Labでは、まず「グリシルグリシンとは何か」を直感的に理解していただける体験型のブースを作りました。
——具体的には、どのような“体験”ができるのでしょうか?
西川:
グリシルグリシンは非常に結晶化しやすい成分なので、その成分が実際に「結晶化していくシーン」を視覚的に見ていただけるようにしました。具体的には、ブースに試験管をずらりと並べて、そこにグリシルグリシンを溶かした水溶液をお客さま自身の手で垂らしていただきます。垂らした直後はただの液体ですが、時間が経って乾くと、数日後には雪のような美しい「結晶」がもこもこと育っていきます。
ブースには、数日前に別のお客さまが垂らした試験管も並んでいますので、「いま垂らしたものは、数日経つとこんなふうに結晶化するんだ」と、時間の経過による変化を見ることができます。
ほかにも、フリュイド結晶化抑制技術を、視覚的にわかりやすい形で表現する試みもあります。ただ商品を試すだけでなく、素材に対するこだわりやストーリーを“体験”として持ち帰っていただけるようなブースを目指しました。
fibonaから研究者が届ける「本当にいいもの」
——「フリュイドセラム #1」を、どんな方に手にとってほしいですか?
大高:
資生堂研究所には、「なんとなくいいものを作っている」というイメージがあるかもしれませんが、研究者が「これが本当にいいんだ」と信じる、ここまで尖った商品を届けられるのはfibonaだからこそ。毛穴や肌について本当に困っている方に、ぜひ使ってみていただきたいです。
中村:
メンバーでも実際に使っているのですが、みずみずしく使いやすいテクスチャーでどんな方にもおすすめできるので、ぜひ幅広い層の方に手に取っていただきたいです。このプロダクトがフックとなって、「資生堂はこんなにすごい技術を持っているんだ」という認知が広がり、他の商品への興味にもつなげていけたらいいですね。
西川:
毛穴の悩みは普遍的なものですが、特に20〜30代の方々にとって非常に顕著で、解決したい悩みとして常に上位に挙がります。そうした切実な悩みを持つ方はもちろん、美容や新しい技術への感度の高い方にも、「毛穴ケアの新しい選択肢」として、この商品が届いてほしいです。
上野:
我々は“技術の資生堂研究所”であると日々研究しながら思っています。この1本を通じて、それを強く実感してもらえたらうれしいです。世の中には化粧品がたくさんありますが、情報が多すぎて何を選んでいいか分からなくなることもあるかもしれません。そういうときに、“技術の資生堂研究所”として頼れる存在になれたらと思っています。
(text: Ikumi Tsubone photo: Umihiko Eto, Yuko Kawashima edit: Kaori Sasagawa)