新しいユーザー体験の創造、実感するビューティーの力。fibona新メンバーが挑戦する「Speedy trial」
2023.10.5
資生堂の研究所が“外部の知と人の融合”を掲げて推進するオープンイノベーションプログラム「fibona」。
2019年の発足から4周年となるfibonaには、新たなメンバーが続々とジョインし、それぞれのキャリアの専門性を発揮している。
fibonaの活動のひとつである「Speedy
trial」は、研究によってテクノロジーを活用したプロダクトのβ版を開発し、展示会やクラウドファンディングを通じて、すばやく市場に投入するプログラムだ。
「Speedy
trial」のメンバーとして活躍するfibona新メンバーの喜多真弘、稲場由美、辻知佳の3人に挑戦と意気込みを聞いた。
fibonaに期待する「新たにチャレンジできる場所」
――まずは、皆さんの簡単な自己紹介と、fibonaに参加したきっかけを教えてください。
喜多:
2021年に資生堂に入社した喜多です。普段はR&D戦略部でライフサイエンス研究の方向性を探ったり、外部の企業さんとのコラボレーションを企画したりする業務に携わっています。
前職は食品会社です。基礎研究を5年ほど担当した後、新規事業部で事業の立ち上げや運営を経験してきました。fibonaには今年から参加しました。普段の業務では優先順位やマンパワー的にチャレンジが難しい領域も、Speedy trialのような枠組みであればチャレンジできそうだなと感じたのが参加の動機です。

稲場:
食品メーカー2社を経て、2022年に資生堂に入社した稲場です。現在も食品に関係する製品開発や部署間の調整などを担当しています。
fibonaに参加したのも、やはり「食」がきっかけでした。資生堂は化粧品メーカーとしての軸がある会社ですから、しばらくは食事に近い食品の製品開発に携わる機会は見つからないだろうと思っていました。でもfibonaの存在を知り、Speedy
trialであれば、食事関連でも今までにないものを作って世に出せる良い機会になるのでは、という期待から参加を決めました。
辻:
2020年に新卒で資生堂に入社した辻です。普段はファンデーションの開発を担当しています。入社してすぐの頃からfibonaの存在は知っていて、面白そうだなと思っていました。しかし最初の数年は本業のファンデーションの開発に集中したく、fibonaには参加していませんでした。
ただ、私の同期がfibonaにずっと参加していたので、面白そうな話は以前からよく聞いていました。自分も参加しようと心を決めたのは、昨年末に開催された「Around
Beauty
Meetup」のコーヒーのリアルイベントがきっかけです。イベント自体も充実していましたが、何よりメンバーの方々がすごく楽しそうで生き生きしていたことが印象に残りました。
そのときに「実は前からfibonaに興味があったんです」と打ち明けると、「fibonaでなら製品開発業務の経験もいかせるよ」と言ってもらえたので、「ぜひ参加させてください」と手を挙げました。

多様な「Speedy trial」の挑戦
──皆さんはいま、fibonaでどんなプロジェクトに関わっているのでしょう。
喜多:
私は2件のSpeedy trialに関わっています。いずれも新しい価値を持つ製品を、世の中に素早く出していくことを狙いとした取り組みです。 具体的なところはまだ表に出せないのですが、ひとつはウェルネスの体験価値へのチャレンジです。もうひとつは、感性価値を付加した食体験の提案です。
稲場:
私が入ったSpeedy trialのプロジェクトは、既存の食品とは異なる、まったく新しいタイプの体験価値型食品プロダクトです。具体的な情報を出せないのがもどかしいですが、ペットボトル飲料に例えるのならば、中味の液体が新しいのではなく、容器がこれまでにない革新的な特徴を持っている、というイメージで伝わるでしょうか。
食品的でもあり、コスメに近い部分もある。単なる栄養素だけでなく、情緒的な価値も追求した、資生堂だからこそ打ち出せる価値を持つ製品となることを目指しています。とはいえ、既存の製品とはまったく異なるため、プロトタイピングと検証を繰り返しています。

辻:
私が携わっているSpeedy
trialは、コロナ禍で普及したリモートワークの休憩タイミングなどで、心をリセットさせるようなアイテムの開発を目指しています。私は途中から参加している立場ですが、いろいろな人と関わりながら製品をつくるものづくりの面白さを体感している最中です。
普段の業務で開発しているファンデーションは、当たり前ですが、いわば「中味」だけなんですよね。でもSpeedy
trialであれば、アイデア出しの段階から、中味や外装の設計、お客様にどのようにアピールするかまで、全工程に関わることができる。そこにすごくやりがいを感じます。
年内のローンチを目指して、今はプロトタイプの最終調整に取り掛かっているところですが、出来上がりが楽しみで仕方ないですね。
新たな体験、ビューティーの文脈に乗せる意義
──いずれのSpeedy trialも、新たなUX(ユーザーエクスペリエンス)の創造でありながら、資生堂が強みとしてきた美や感性、情緒的価値を生かそうとする姿勢が共通点のように感じました。
喜多:
まさにそれこそが資生堂の価値であり、社員全員がもっと認識したほうがいいと私は思っています。美、ビューティーの力は本当に強いんですよ。
資生堂は、高齢者の方々を対象としたリハビリも兼ねた美容教室を以前から開催しているのですが、私はあの取り組みは素晴らしいと思っています。ある理学療法士さんが、こんな風に言ってくれたんです。
「リハビリのために運動をしましょう、と誘っても、ほとんどの人は喜ばないんですよ。でも化粧療法、メイクをしましょうと声をかけると、みなさん喜んで来てくださる。それってすごいですよね」と。
本当の目的はリハビリなのですが、それを少しだけビューティーに寄せてみると、行動変容が起きる。美やアートの文脈に乗せることには、そうした力がある。そこをフックにした体験を提案することに大きな可能性を感じています。
稲場:
それはすごく共感しますね。私が資生堂に転職したきっかけも、遡ると10代のときに、たまたまクレ・ド・ポー ボーテの化粧水を使う経験をして、衝撃を受けたからなんです。
肌にのせたときの柔らかな感触や、「一体どこの国の花だろう?」と考えてしまうような繊細な香り。リアルな刺激と感動。あの体験は今もずっと心に残っています。それが私にとって価値があるUXでしたし、そうした製品をつくりたいと思いながら、ものづくりに携わっています。

辻:
わかる気がします。以前、スターバックスの人気の秘密を探って化粧品にも活かせないかという課題に取り組んだことがあるのですが、スターバックスの魅力はやっぱりあの空間だと思いました。あの心地よい空間に浸る体験にこそ、価値がある。だからこそ、情緒的価値ってやっぱり大事なんですよね。
喜多:
コロナ禍を経て、本能に訴えかけるようなリアルな刺激、リアル感の価値は逆に上がっているように感じられますね。人の心はどこで動くのか。そういった美や感性を根幹とした価値に、再び目が向けられている気がします。
相互に活かす、fibonaの取り組みと本業の知見
──最後に、これからfibonaの活動を通じて実現したいことや野望をお聞かせください。
辻:
これはfibonaに限らず、全社的に広がりつつある動きだと感じていますが、みなとみらいにあるS/PARKを今まで以上にもっと活用していけたらと思っています。
1階には健康的な食事を楽しめる「S/PARK Cafe」やアクティブビューティーを体感できる「S/PARK Studio」、ここにしかない化粧体験が楽しめる「S/PARK Beauty Bar」があって、2階には入場無料の体験型ミュージアム「S/PARK Museum」がある。ラボには研究員がたくさんいて、横浜駅からも歩いて来られる立地。これらの好条件を備えたS/PARKという施設をフルに活かして、一般のお客さまと私たちがもっと密接に関わることができるような、新しいイベントや活動の形を探していくつもりです。
稲場:
私はいろんな企業とのコラボレーション企画をさらに積極的に進めていきたいです。他社さんと一緒に仕事をすると、開発の流れや考え方、表示方法のような細かい部分に至るまで、あらゆるところで違いが見えてくる。そこが面白いし、刺激になる。fibonaメンバーとのコミュニケーションも含めて、こうした刺激や発見が自分自身の成長につながっていくと思います。
喜多:
他社さんとの協業に力を入れていきたい点は私も同感です。私は前職でずっと基礎研究をやっていたので、研究と社会との接点、出口はどんな形だろうといつも考えるんです。fibonaを通じて他社さんと組むことで、「こんな出口の作り方もあるんだ」という実例をたくさん間近で見られる経験は、今後の本業にも大いに活きてくる気がしています。
fibonaの実験的な取り組みを本業にフィードバックして、本業の知見をfibonaに落とし込む。こうしたループをどんどん回すことで、社会との接点や新しい研究の出口の形を探っていけたらいいなと思います。
(text: Hanae Abe edit: Kaori Sasagawa)
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